西浦たちが伝えたいのはファッションではなく、姿勢=アティチュードだ。表面的に個性があったり、独創的な洋服を作ることは難しくない。模倣をすれば、見栄えの良いものは作れてしまう。ただそこに自分たちの想い入れを投影したり、日々の研究の結果を盛り込めていないと、結局はオーディエンスに見破られてしまう。そのことを十分に理解しているからこそ、西浦はプロダクトに対して一切の妥協を許さない。価値を決めるのはオーディエンスだと言い切り、マーケットに対して真摯に向き合っている。プロダクトを介して、自分たちのアティチュードを伝えているのだ。
「表現している側がいい加減な物作りで金儲けをして、それがカッコいいという価値観になってしまうのが恐ろしい。そうじゃなくて人に豊かな価値を感じてもらうならば、それ相応の努力を重ねて、人の想像の域を超えていかなければならない。そうやって想いを持って物作りをすることが真っ当なことにならないと、世の中に対して責任を果たせないんじゃないかな。価値を決めるのはいつもオーディエンス。俺たちはそれを提供する役割をもらっているにすぎない。」
自分たちのエゴや儲けではなく、人を喜ばせるために確固たる信念を持って物作りをする。好きなことを一意専心にやって、見せかけだけではなくその姿勢を伝える。一見当たり前のことのように思うが、貫こうとすると難しい。むしろそこまで考えて物作りをしている人の方が少ない。好きなことを貫ける仕事につき、自分はこの道でいくと決断する。それを地道に積み重ね、自然と厚みを増していく。上手く行ったとしても決して調子に乗らず、世の中に対して責任を持って更なるクリエーションを目指す。そのような一つ一つの行動が有機的に繋がってはじめて、人に感動してもらえるようなものが作れるようになる。それをしっかりと理解した上で実践しているのが彼らなのであろう。方向性はそれぞれ違えど、根本のアティチュードは同じ。だから互いに尊敬し合い、時を経て尚いい関係を築けている。おびただしい彼らの選択の一つ一つが積み重なり、複雑に絡み合い、こういう関係が構築できていると思うと、奇跡的なことだとも思えてくる。
Tenderloin isn’t keen on conveying the style of fashion, but more the attitude behind it. Creating something different and faking originality on the surface isn’t too difficult by imitating a good example. But unless the creator’s weight is projected onto the form and updates of his daily research is downloaded into it, a good audience would probably see through it. Nishi’s products has no compromises of this sort. He simply follows through his philosophy that the values of his clothes are always decided by the audience.
「Just the thought of making money with half hearted creations scares me. To produce a product with genuine quality, one needs both the effort and the outcome that exceed the expectation of the audience. Creators always have the responsibility to deliver that. And in any production, we’re not the ones to judge its values. What we have is an opportunity to present the creation, and the decision is ultimately left to the audience to decide its worth. 」
「テンダーロインをいいと言ってもらえるのは嬉しいけど、自分たちは外から見ているほど楽しいことはやっていない。責任を持って何かを伝えたいと不器用なりに努力しているだけ。世の中から役割りを与えてもらっていることに対して、真剣に向き合いたい。でも不器用な人間がそれを行うには、時間が掛かる……。たくさんの失敗も必要だろう。でもその失敗による恥なら、喜んで買って出る。それを怖がったり避けていては、人に価値のあるものだと認めてもらうことができないから。」
彼らが洋服を通して伝えたいことは、一貫してストレートなメッセージだ。人に豊かな価値を感じてもらうのであれば、一生懸命に努力し、責任を持って表現する。そしてそれが人の役に立ったり、幸せな気持ちや豊かさをもたらすことが出来れば嬉しいということだ。古来より変わらぬ、人が人に対して思いやるという真心そのものだ。それをサブカルチャーやアンダーグラウンドなアプローチ、洋服を通して表現している。自らの“光”の部分を大切にし、“影”の部分をバネにして気持ちを奮い立たせ、自分たちを磨き上げてきたからこそ思える境地なのだと思う。そういうアティチュードを積み重ねてきたことによる厚みや深みこそ、彼らが輝き続けられる理由なのだろう。だから彼らの作る洋服は単に着るということではなく、纏うという感覚を抱かせる。東京、日本にとって貴重な存在だ。消費されない本当の価値がそこにある。
「It feels good when someone comes up to me to tell me they like Tenderloin, but on the contrary to their expectations, our activities aren’t as flashy and fun as they think. We’re in our studio every single day researching and creating samples improving our skills and trying our best to fulfill our roles in the society as professionals. We face many mistakes on the way, but I happily welcome shame from the failed attempts. The important thing is facing the fear to overcome them, because nothing with real quality can be created by trying to get around these obstacles. 」
The philosophy of Tenderloin clothing is always consistent. It almost resembles old fashioned ways and attitudes, but with an underground subcultural approach to it. Responsibility, endless effort, and genuine quality. Their testament to life certainly originated from the continuous approach to their belief in authenticity. For Tokyo and for all of Japan, their existence is a most valuable one and surely will continue to lead the way for many others to come.
第一章の眞野から、邊見、西浦の話を経て、彼らの関係性や“光”と“影”、クリエーションの本質に迫ってきた。そこには人が人を思いやるために何かを表現するという、最も基本的で、最も深く難しいアプローチが潜んでいることがわかった。当たり前のことを当たり前にやる。成功したとしても決して奢らず、コツコツと努力を積み上げ、それがやがてかけがえのない価値を作り上げる。物作りにおいて本質的に大事にすべきプロセスを熟知しているからこそ、彼らのプロダクトには一種独特の空気感が宿る。逆に言うと、洋服を通してここまでの表現をしようとしている者が少ないからこそ、彼らのプロダクトはひと際違って見えるのかも知れない。そんな彼らの洋服やアティチュードは、心底カッコいい。だから多くの人に伝えたいと思いたくなる。ただファッションや洋服の文脈だけだと、メジャー化したとたんに消費され価値を失う。そんなことは彼らもオーディエンスも望んでいない。でももしこれらを、アートや芸術という文脈で捉えることができたらどうだろう。消費されることなく多くの人に伝えることができるかもしれない。サブカルチャーやアンダーグランドな側面を失わずに世界中の人々へ届けられるのではないだろうか。日本ならではの中途半端なメジャー感を彼らの価値観でひっくり返すことができたら実に痛快だ。江戸時代の浮世絵師などもアートという手法を使い、ストリートからパンクス的なアティチュードでさまざまなメッセージを発信していた。最終的には世界中に支持され、それは現代の日本でも老若男女に愛されている。そのようなアプローチで世界を席巻している芸術家は、現代にも少なからず存在する。単純に比較することはナンセンスだが、それに近しい価値を彼らは作り出している。そしてこの東京、日本が世界に誇れる芸術・アートの一つだと改めて思う。彼らの物作りやアティチュードを、目で見て、着て、感じることで、既存の世界観や価値観を変えることができたら、こんなに楽しいことはないだろう。
Here ends the final episode of the series. In this trilogy, we have shed light on the relationships of the men behind the renowned brands and the thought process behind their creativity. The reader must have been surprised how close their philosophy and attitudes are but when you look at the products themselves, one could surely see the connections. In the Edo period, a style of art called the Ukiyo-e gained popularity expressing street and punk like attitudes. Now, after a few hundred years, this art is praised and sought after all over the world. I see many resemblances with this art form to the three brands representing this modern day Tokyo. It would be compelling if some day their attitude clad clothes would influence the minds and spirits of people all over the world just as the art has done so.
Toru Nishiura西浦 徹
東京生まれ。
1997年TENDERLOINを立ち上げる。
自分達の価値観を大切にし、信念に基づいた物作りをし続けている。
Born in Tokyo.
Founded TENDERLOIN in 1997.
Steadfastly commited to creating original and authentic clothing.